「みんなでごはんやさいカレー」のお話
(有)応用栄養学食品研究所
代表 山口 廣治

 食品に携わってから今年で20年[*]を迎えようとしています。その間、食品開発の面白さ、楽しさ、大変さを経て様々なことを学ぶ事できました。
中でも一番大切なことは、常に食べる人の側に立った食品開発でなくてはならないという点です。つまり、人に必要とされ、その人にとってはなくてはならない食品づくりです。
 食品は人に美味しさや栄養、楽しさや健康を与えてきました。確かに、プロのコックさんや板前さんが作った食品は美味しいですね。その理由は材料の良さと一流の腕前がなせる技という気がします。
 しかし、一方、おばあちゃんやおかあさんが作ったご飯は、ありきたりの材料なのに美味しいと感ずるのは何故でしょうか?
 それは、食品から人が得られるものの中で、もっとも重要な作る人から食べる人へのおもいやりの心が詰まっているから、と思います。
 「食べる人の側に立った物作り」という点ではこれに優るものはありません。
 時代の流れとともに私たちの食生活も大幅に変化してきました。いわゆる食の国際化です。さらに、食事の形態もほのぼのとした「家族団欒食」から味気ない「勝手気まま食」へと替わってきました。同時に、年々、調理済み加工食品の依存度も高まり、今後は、高齢化、少子化等からさらに増加すると考えられています。
 しかし、どのように食生活が変わろうと、決して忘れてはならないことがあります。それは相手に対する「おもいやりの心」を込めて調理、提供するという姿勢です。
 3年前[*]、長谷川医師に「みんなのやさいカレー」の開発を依頼されたときは大いに困惑しました。それは、食事制限を余儀なくされている子どもたちの食品を開発するためには、沢山の高い壁を乗り越えなければならない事を知っていたからです。しかし、長谷川医師の子どもたちへのおもいやりの心と情熱に動かされ、幾度の製造試験を経て、ようやく製品化までたどりつくことができました。
 製品化にあたっては「袋のカレー」ではなく「おふくろのカレー」を目指しました。
 見かけは包装された個食カレーパックですが、袋の中に、じゃがいも、にんじん等の材料の他に食べる人への「おもいやりの心」を込めて一袋一袋を製造しているつもりです。
 大切なことは、便利さに心を忘れてしまうことなく、手作りのようにちょつと調理してみたり、楽しく「みんなでごはんやさいカレー」と向き合うことだと考えます。

*この文章は平成15年(2003年)に寄稿していただきました。
山口 廣治
(有)応用栄養学食品研究所代表

北海道出身、食品開発エンジニア。これまで、研究開発に携わった食品点数は1000アイテムを越す。
HACCP審査員、農林水産省JAS規格委員会委員、(独)食品総合研究所高度化事業受託研究所、農協改革緊急サポート事業アドバイザー、機能性農産物生産・研究機構主席研究員。
(社)新日本スーパーマーケット協会客員研究員、「いのちを守る商品表示」の著者。

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